「明日にかける橋」
皆さんこんにちは、「聖書からのワンポイント」の清水浩治です。今日のお話のタイトルは、「明日にかける橋」であります。このタイトルから思い浮かぶのは、サイモンとガーファンクルの大ヒット曲で、これはその曲のタイトルそのものであります。私の記憶では、自分が中学生か高校生の頃、このグループの曲がよく流れていました。
「明日にかける橋」は、もちろん一般の曲として歌われていましたが、曲が作られる背景に、黒人霊歌の一曲との関連があると言われています。
黒人霊歌も神を賛美する讃美歌でありますが、讃美歌と言いますと文字通り神を賛美するために作られた曲であります。それと同時に、世界各国のフォークソング、日本で言えば民謡のような曲のメロディーが使われ、歌詞は神を賛美する歌詞が付けられて、讃美歌として歌われることがよくあります。その代表的なものがAmazing Graceであります。歌集によっては、メロディーがイギリス民謡と書かれているものもあれば、アメリカ民謡と書いてあるものもあり、正確な起源はわからないようです。ただ、歌詞の作者であるJohn Newtonはイギリス人で、父親が奴隷船の船長をしていて、自分もその仕事にかかわるようになった中で自分の罪深さに気づき、神の驚くばかりの恵みにゆえに、自身の罪深さが認識でき、神の救いにあずかったというのがAmazing Graceの曲が作られた背景であります。
テレビ番組において伝えられていた内容ですが、作詞者のポール・サイモンは、黒人霊歌のMary Don’t You Weepの歌詞の一部に注目をしました。そして、この歌の一部の歌詞を用いて、「明日にかける橋」というタイトルを作ったのでした。実は、「明日にかける橋」とはかなり簡潔に訳した意訳(意味を訳した訳)であり、元々の黒人霊歌の歌詞から紹介しますと、次のようになります。
I’ll be your bridge over deep water, if you trust in my name.
もしあなたが、わたしの名に信頼を置くなら、わたしは、深い海の上を
あなたが渡るための橋となろう。この歌詞のところから
I’ll be your bridge over deep waterではなくて、troubled water
私は、荒波の海の上を超えるあなたのための橋となろう、
もともとのdeep waterをtroubled waterに変えて、曲のタイトルをBridge over troubled waterとしているわけです。
おおもとであるMary Don’t You Weepは、19世紀、アメリカ南北戦争以前から伝わる黒人霊歌で、1960年代のアメリカの公民権運動で盛んに歌われていたそうです。遠く離れた南アフリカにおいては、アパルトヘイトがまだ残っている時代に、アレサ・フランクリンという女性歌手の歌声で、黒人の間で広まっていったとのことです。なんと教会においては、一般のフォークソングとしてではなく、讃美歌の一曲としてBridge Over Troubled Water, 「明日にかける橋」が歌われていました。
大変興味深い点でありますが、ポール・サイモンがどのようにしてMary Don’t You Weepを聴いたのかが知りたいところです。ただ単にラジオで流れていた曲を耳にして、その中の歌詞に惹かれたのかもしれません。彼が教会に足を運んで教会においてこの曲を聴いていたとすれば、これは大変驚くべきことであります。彼は、ハンガリー系ユダヤ人の家庭に生まれているので、その背景がある人がキリスト教の教会を訪ねることは非常に稀だからです。
最後に、歌詞の内容をもっと具体的に見ていきましょう。コーラスの部分、いわゆるさびの部分では次のような歌詞になっています。Like a bridge over troubled water I will lay me down 荒れ狂う海にかかる橋のように、私は私自身を横たえる。つまり、自分は橋となって渡れるようにしてあげる、と歌っているのです。「明日にかける橋」というタイトルでは、歌詞の意味内容が十分に伝わってこないところがあります。この歌詞がもともと讃美歌からの歌詞であるのを考えますと、キリストが十字架を通して、私たちが渡れない救いへの道、天国への道が、キリストが十字架上にlay Himself down, 彼自身(を横たえる)身を置くことを通して、人を救いへと導く礎となっている、というメッセージのように聞こえてなりません。
2021.10.8
ラジオ・ティーチング・ミニストリー「聖書からのワンポイント」
タイトル「明日にかける橋」
牧師:清水浩治